「他社のAI活用事例を、20社ぶん集めてください」
推進担当になった人が、最初に頼まれることの1つです。
数週間かけて表ができます。会社名、使ったツール、削減した時間。きれいにまとまります。
そして、たいてい次でこう言われます。
「で、うちは何をやればいいの」
表を見返しても、答えは書いてありません。
集まっているのは、施策名だけ
事例が世に出るとき、記されるのはやったことと出た数字です。
記事に載る どのツールを入れたか
どの業務に使ったか
何時間・何%減ったか
記事に載らない なぜ、その業務を選べたのか
誰が、止まったときに直したのか
前提として、何が既に揃っていたのか
効いた理由は、下の3行の側にあります。そして下の3行は、その会社の中にしかありません。
同じツールを、同じ業務に入れて、結果が割れるのはこれが理由です。施策は移せますが、条件は移せません。
「うちは特殊だから」も、同じ形の誤り

事例を否定するときに出る言葉です。
「あの会社は人が多いから」「あそこは製造業だから」
これも、実は条件を見ていません。業種や規模は、条件の代わりに使われているだけです。
効くかどうかを決めているのは、たいていもっと手前の、面白くない条件です。
- その業務の手順が、文章になっているか
- 判断の基準を、担当以外が言えるか
- 止まったとき、直す人が決まっているか
事例の会社にこれがあって、自社に無いなら、同じ施策は効きません。業種の違いではありません。
事例から条件を復元する3つの問い

集めてしまった表を、捨てる必要はありません。1件だけ選んで、次の3つを埋めてみてください。
① その業務を選べたのは、何を知っていたからか
「入力に時間がかかっていた業務」と書いてあるなら、その会社は、業務ごとの時間を知っていたということです。自社は知っていますか。知らないなら、効いたのはツールではなく、測っていたことです。
② 導入後、最初に壊れたのは何か
事例に書いてありません。ですが必ず壊れています。書いてあるのが成功だけの記事なら、条件は1つも読み取れません。登壇者に質問できる機会があるなら、聞くべきはここだけです。
③ 今、誰が直しているか
作った人が異動したあと、動き続けているか。運用している人がいる事例と、作った時点で記事になった事例は、別物です。
3つ埋まらない事例は、参考になりません。20件集めるより、1件を3つの問いで割った方が、判断材料になります。
集める代わりに、自社を1件書く
事例集めが長引く会社に共通するのは、自社の現状が文章になっていないことです。
比較対象が無いので、どの事例も同じくらい良く見えます。選べないのは情報が足りないからではなく、基準が自社側に無いからです。
先に書くのは、こちらです。
| 書くこと | 分量 |
|---|---|
| いちばん時間がかかっている業務、上位3つ | 各1行 |
| その3つが、なぜ時間がかかっているか | 各1行 |
| 手順が文章になっているか(はい/いいえ) | 3行 |
A4で1枚に収まります。これがあると、事例を見たときに「うちの2番目と同じだ」「これは前提が違う」が即座に分かります。
順番が逆になっているだけです。事例を集めてから自社を見るのではなく、自社を書いてから事例を見る。同じ20件が、まったく違う読み物になります。
木曜に、1つだけ
集めた事例の表から、いちばん良いと思ったものを1件選んでください。
そして、その会社がその業務を選べた理由を1行で書いてみる。
書けなければ、その事例からは何も持ち帰れていません。表の残り19件も同じです。
そこで手が止まるのは失敗ではなく、やっと比較が始まったということです。
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