「AI、うちでも入れないとね」
そう言われて動き出した会社を、いくつも見てきました。そして、止まり方まで似ていることに気づきました。
止まり方が似ているのは、AIのせいではありません。この30年、同じ場所で転び続けているからです。
4つのブームを、並べてみる
年代はおおよそですが、日本の会社が「業務を良くしよう」として取り組んできたものを並べると、こうなります。
| 何をしたか | 主役 | |
|---|---|---|
| カイゼン | 現場が自分たちの手順を見直す | 現場 |
| BPR | 業務プロセスを一から設計し直す | 経営・コンサル |
| RPA | 定型作業をソフトのロボットに置き換える | 情シス・現場の有志 |
| AI | 判断や文章作成まで機械に任せる | まだ決まっていない |
道具はまったく違います。カイゼンに必要なのは付箋とホワイトボードで、AIに必要なのはGPUです。
それでも、止まる場所は同じでした。少なくとも、わたしが見てきた現場では。
共通しているのは「誰の仕事か」が決まらないこと

4つとも、こう言われて始まります。
「まずは現場でやってみて」
そして、こう言われて終わります。
「忙しくて、続かなかった」
続かなかったのではなく、誰の仕事にもなっていなかった——これがわたしの見立てです。
カイゼンは「本業の合間に」やるものでした。RPAは「詳しい人が趣味で」作ったものでした。作った本人が異動した瞬間に、誰も直せないロボットだけが残りました。
AIも、いま同じ場所にいます。プロンプトを工夫している人はいます。でもそれは、その人の画面の中の話です。
なぜ、この形が繰り返されるのか
理由は、業務改善が「余った時間でやること」に分類されているからです。
会社の仕事には、やらないと誰かが困る仕事と、やらなくても今日は困らない仕事があります。請求書を出さなければ入金がありません。だから請求書は必ず出ます。
業務改善は、やらなくても今日は困りません。明日も困りません。困るのは数年後で、そのときには担当者が変わっています。
だから、繰り返し始まって、繰り返し止まります。
150の業務を見て、分かったこと
これまで、大手金融グループや上場メーカーで、約150の業務を診断してきました。
そこで分かったのは、うまくいった業務と、止まった業務を分けていたのは、技術ではなかったということです。
止まった業務には、共通して空欄がありました。
- この業務が止まったとき、誰が判断するのか
- このやり方を変えるとき、誰の承認が要るのか
- 作った人がいなくなったら、誰が引き継ぐのか
わたしが見てきた範囲では、この3つが決まっている業務は、道具が何であっても進んでいました。決まっていない業務は、カイゼンでもRPAでもAIでも、だいたい同じところで止まっていました。
技術の問題ではなく、空欄の問題です。
では、AIは何が違うのか

1つだけ、これまでと違う点があります。
カイゼンもBPRもRPAも、成果が出るまでに時間がかかりました。手順を作り直して、効果が見え始めるまでに何か月もかかる。だから、途中で予算も熱意も切れました。
AIは、最初の効果がすぐ出ます。議事録の要約、資料のたたき台、メールの下書き。手を動かせば、その日のうちに時間が浮くこともあります。
これは大きな違いです。ただし、そこで満足すると、また同じ場所で止まります。
「自分の作業が速くなった」で終わると、その人が異動した瞬間にゼロに戻ります。過去3回と同じです。
今回、違う結果にするために
やることは1つだけです。空欄を埋めてから始める。
具体的には、最初に決める3つがあります。
- この業務の判断を、最終的に誰に戻すか
- やり方を変えるとき、誰の承認が要るか
- 担当が替わったとき、誰が引き継ぐか
技術の話は、その後で構いません。順番を逆にすると、また「詳しい人の趣味」で終わります。
分厚い引き継ぎ書は要りません。この3つが、1枚に書いてあるかどうかです。
おわりに
AI導入の相談を受けると、たいてい最初にツールの話になります。どのサービスがいいか、セキュリティは大丈夫か。
大事な話です。ただ、それは4回目の議論です。
前の3回も、同じところから始まっていました。今回だけ違う結果になるとしたら、その理由は道具の性能ではないはずです。
あなたの会社で、いま止まっている取り組みがあるとしたら。その業務の3つの空欄が、埋まっているか見てみてください。
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