前回、Copilotが「高機能炊飯器」である理由についてお話ししました。機能を先に見せても人は動かない。「何に困っているか」から出発して初めて、道具は使われ始める。
では、組織の中で「何に困っているか」を掘り起こし、実際にAIが定着するところまで持っていくには、具体的にどんな工程を踏む必要があるのか。今回は、そのロードマップ全体をお見せします。
組織がAIを使いこなすまでの7つの工程

私が現場で繰り返してきた工程は、大きく分けるとこの7つです。
- 不満を収集する
- 問題を、扱える形の課題に成型する
- 課題を、実行可能な対策に変換する
- 対策から、計画を立てる
- 計画に、人を巻き込む
- 計画を実施する中で起こるトラブルに対処する
- 成果物を組織に落とし込む
7つとも大事な工程ですが、実はこの中で一番見落とされがちで、かつ一番難易度が高いのが、最初の「不満を収集する」です。ここでつまずくと、その後の6工程がどれだけ精緻でも、そもそも的外れな方向に進んでしまいます。
なぜ、この最初の工程に人事の力が要るのか
「不満を収集する」と聞くと、単に現場にヒアリングして回るだけのように聞こえるかもしれません。実際はもっと複雑です。
人事は、その業務そのものの専門家ではありません。経理の実務も、物流の現場作業も、人事担当者本人がプレイヤーとしてできるわけではないことがほとんどです。それでも人事には、次のことが求められます。
- その業務がどんな構造で成り立っているかを理解する
- あるべき姿(理想の状態)を思い描く
- 理想と現状の乖離を、具体的に算出する
- その乖離が、今の組織事情から見て許容範囲なのか、それとも今すぐ手を打つべきなのかを判断する
これは、専門家として作業ができることとは、まったく別の能力です。私自身、複数の組織でこの工程を求められてきました。組織のキャパシティを算出し、そこから将来の組織拡大に向けて誰を育成・昇進させるべきか、誰にコーチングが必要かを見極める。あるいは、離職のリスクをどう見積もるか。こうした「業務を構造として把握し、そこから戦略を立てる」力が問われる場面ばかりでした。
炊飯器の比喩に戻ると

前回のカレーの話に戻ります。炊飯器を勧める前に、まず「その人が料理や家事の何に困っているか」を把握しなければ、提案のしようがありません。
AIも同じです。その人が困っている業務がどういう構造をしているか、それはAIで解決できる種類の問題なのか、そもそも解決すべき優先度の問題なのか。ここを瞬時に見極め、対話を重ねながら理解を深め、まだ輪郭のぼやけた抽象的な課題を、扱える解像度まで具体化していく。この一連の動きこそが、AI定着の起点になります。
そしてこの動きは、AIの技術知識では代替できません。組織と人を構造的に見る訓練を積んだ人間にしか、できない仕事です。
人事だから、定着する
ここまで3回にわたってお話ししてきた内容をまとめると、こうなります。
導入しただけの組織は、3%しかAIを使いこなせないまま止まる(第1回)。機能を先に見せても人は動かない、自分の業務に結びついて初めて動く(第2回)。そして、その「結びつけ」を的確に行うには、業務を構造として理解し、あるべき姿とのギャップを見極める力が要る。それは、人と組織を見る専門職である人事にこそ備わっている力です(第3回)。
「AIは技術の問題じゃない。人の問題です。」
「人事だから、定着する。」
7つの工程のうち、今回お話ししたのは最初の1つだけです。残る6つの工程――課題の成型、対策への変換、計画立案、巻き込み、トラブル対応、組織への定着――についても、今後このシリーズで順番にお話ししていく予定です。
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