「1タップで記録できる」はまだ甘かった——使われない理由は、使っていない人が持っている

AI活用Tips

前回、期限管理の仕組みには4つの工程——計算・配信・回収・検出——が要る、という話を書いた。そして多くの現場で欠けているのは3番目の「回収」だとし、こう結論した。

記録のためにアプリを開かせると続かない。メールへの返信で完結するところまで下げる必要がある。

これを実際に運用した。結果を先に書く。

設計を間違えていた。回収の入口を、自分が毎日使っている道具の上に組んでいた。その結果、担当者2人のうち片方からは記録が上がってこなかった。使う側から見れば当然で、その人はメールを日常的に開かない。開かない場所に入口を置いたのは、こちらである。

手数の問題ではなかった。済 RT1 と書いて送信するだけで、たしかに1操作だ。だがそもそもその1操作にたどり着かない。

前回の記事で私はこう書いていた。

担当が2人いる業務では、両方から記録できることが決定的に重要になる。片方だけが記録できる仕組みは必ず破綻する。

自分で書いておきながら、実際には片方しか記録できない仕組みを作っていた。

そして直し方を教えてくれたのは、私ではなかった。「LINEなら見るけど」——もう一人の担当者、つまり妻からの一言である。作り手はメールで完結する構成の美しさに満足していて、使う側が毎日どこにいるかを見ていなかった。

この記事は、その修正の話をする。

手数を下げたのに使われないのは、なぜか?

手数の測り方が間違っているからだ。数えるべきはタップ数ではなく、「記録に着手するまでに立ち寄る場所の数」である。

メール返信方式の手数を、私は「送信ボタン1回」と数えていた。だが実際に相手が通る道はこうだ。

  1. メールアプリを開く(普段開いていない)
  2. 該当のメールを探す
  3. 返信を開く
  4. 送信する

タップ数では1でも、入口の数では4つある。そして1つ目で止まる。

一方、その人が1日に何十回も開いているアプリがある。LINEだ。ここに記録の入口を置けば、経路はこうなる。

  1. すでに開いている
  2. 下のメニューを押す
  3. ボタンを押す

同じ「1タップで記録」でも、たどり着けるかどうかがまるで違う。

回収の設計で本当に問うべきなのは「操作は何回か」ではなく、「その人が毎日すでにいる場所はどこか」だった。

LINEの中にアプリを入れるとは、どういうことか?

LIFFという仕組みを使うと、トークの下のメニューから開くWebアプリを置ける。インストールもアカウント作成も要らない。

LINEには LIFF(LINE Front-end Framework)という仕組みがあり、LINEアプリの中でWebページを開ける。使う側から見ると、トーク画面の下にボタンが並んでいて、押すとアプリのような画面が出る。それだけだ。

  • ストアからのインストールが要らない
  • 新しいIDもパスワードも要らない
  • 誰が開いたか(どのLINEアカウントか)を、LINE側が署名つきで証明してくれる

作ったのはこの3画面である。

ホーム:いま何をすればいいか

ホーム画面。期限までの残り日数を大きく表示し、対象の4件を一覧、下に「よやくした」「うけた」のボタンが並ぶ
画面はすべてデモ用の架空データです

開いた瞬間に見えるのは3つだけにした。期限まで何日か。何を受けるのか。記録するボタン。

一覧表を出していない。予定の全体像は別画面にあり、ホームには「次にやること」しか置かない。前回書いた「残っているものだけが表示される状態を保つ」を、画面設計にもそのまま持ち込んでいる。

記録すると、その項目はホームから消える。終わったものが視界に残らないことが、一覧を読み続けてもらう条件になる。

予約を登録すると、表示が切り替わる

予約を登録した後のホーム画面。「よやく できてます」と日時・場所が表示され、対象の項目に「よやく」の印がつく
画面はすべてデモ用の架空データです

予約を入れると、表示が「期限まであと何日」から「予約の日時」に変わる。

これは意図的な切り替えだ。予約が済んでいるのに期限のカウントダウンを見せ続けると、片付いているものを心配させることになる。状態が変わったら、見せるものも変える。

カレンダー:ほかの予定と重ねて見る

カレンダー画面。受けられる日・予約・その他の予定・期限を色分けして重ね、下に今後60日の一覧が並ぶ
画面はすべてデモ用の架空データです

期限だけを見せても、予定は決められない。ほかの予定と重ねて初めて「いつ行けるか」が決まるからだ。

だから受けられる期間・期限・予約済み・その他の予定を1枚に重ねた。ここでも「決まっていないものは載せない」を守っている。候補を予定として描くと、カレンダーが信用できなくなる。

この作り方で、部品が1つ消えた

「常時待ち受けるサーバー」が要らなくなった。(サーバーが丸ごと不要になったわけではない。後述する)

ここが設計上いちばん大きかった。

LINEで「トークに送られた文字」を拾おうとすると、LINE側からの通知を24時間待ち受け続ける口(Webhook)が要る。落ちている間に来た通知はそのまま消えるので、個人や小さなチームで持つには重い。

LIFFにすると、この関係が逆になる。アプリの側から送りに行くので、待ち受け続ける必要がない。呼ばれたときだけ動く処理があればよく、それは普通のレンタルサーバーで足りる。

文字を送って拾う方式 アプリのボタン方式
記録の入口 トークに文字を打つ 画面のボタン
誰が押したか 受信イベントから判定 ログイン情報から直接わかる
サーバーの持ち方 24時間待ち受け続ける 呼ばれたときだけ動く
落ちていたら 通知が消える 押せないだけ。後でもう一度押せばよい
打ち間違い 起こる 原理的に起きない

部品が減った上に、壊れ方まで良くなっている。

「自動化しよう」と考えるとき、私たちはつい足す方向に考える。だが入口を置く場所を変えるだけで、足すはずだった部品が要らなくなることがある。設計の順番として、置き場所を先に決めた方がいい。

公開URLに置いて、大丈夫なのか?

URLを知られても、許可した本人以外には何も表示されない。

このアプリは公開のWebサーバーに置いてある。だから「URLが漏れたら見られるのでは」という懸念が当然出る。

そこはこう塞いだ。

  1. アプリを開いた時点で、LINEが署名つきの本人証明を発行する
  2. サーバーはそれをLINEの検証窓口に問い合わせて、偽造でないことを確かめる
  3. そこまでで分かるのは「どのLINEアカウントか」までだ。あらかじめ許可した2人のどちらかと一致するかの判定は、こちらのプログラムで行う。一致しなければ何も返さない

パスワードを別に作らせていない。すでにあるログイン状態を借りているので、覚えるものが増えない。

社内システムでも同じ考え方が使える。新しいIDとパスワードを配ると、それ自体が使われない理由になる。すでに全員がログインしている何かの上に載せる方が、結局は定着する。

業務の期限管理には、どう置き換わるか

構造は前回と同じで、置き場所だけが変わる。

育児の例 業務の例
LINEのメニューから開く 全員が毎日開くチャットやグループウェアの中に置く
「うけた」ボタン 「完了」ボタン
許可した2人だけ 担当者と上長だけ
週1のメールにも反映 既存の一覧・レポートにも反映

要点は1つだけだ。

回収の入口は、こちらが管理しやすい場所ではなく、相手がすでに毎日いる場所に置く。

専用ポータルを作って「ここに記録してください」と案内する方式が続かないのは、手数の問題ではない。そこに行く習慣が無いからだ。習慣は仕組みでは作れない。だから、すでにある習慣の上に置く。

改善案は、どこから出てきたか

使っていない人から出てきた。作った側は、使われない理由を持っていない。

ここは正直に書いておきたい。

「LINEに入れる」という案は、私が設計を見直して思いついたものではない。記録していなかった当人が言った一言だった。こちらはメールで完結する構成に満足していて、続かない原因を「まだ手数が多いのかもしれない」と、自分の土俵の中で探していた。

つまり、こういう順番で回った。

  1. 仮説:手数を下げれば記録は残る → メール返信方式を作った
  2. 実行:しばらく運用した
  3. 確認:片方はゼロ件だった。手数ではなく、そもそも入口に来ていない
  4. 改善:使う人が毎日いる場所(LINE)に入口を移した

3の「確認」で効いたのは、稼働率のような数字ではない。使っていない人に理由を聞いたことである。数字は「使われていない」までしか教えてくれない。「なぜ」を持っているのは、使わなかった本人だけだ。

これは家庭内の話だが、支援先で見てきた光景ともよく重なる。導入したツールが使われないとき、報告に上がってくるのはたいてい利用率だ。だが利用率は原因を含まない。「何%が使っていない」までは分かっても、「なぜ」はそこに入っていない。

私の経験の範囲では、返ってくる理由は拍子抜けするほど単純なことが多い。「開き方がわからない」「そのアプリを普段使っていない」。高度な理由ではないから、聞かないと分からないままになる。

それでも、まだ検出は人の仕事

正直に書いておくと、4段構造の4つ目——記録と実態のずれを検出する工程——は、まだ機械化しきれていない。

「予約したまま行かなかった」は、記録の上では予約済みのまま残る。これを自動で見抜く方法は今のところ無い。予約日を過ぎても実施の記録が無いものを拾って、もう一度聞く——今できているのはそこまでだ。

前回「多くの現場で欠けているのは3の回収だ」と書いたが、3を埋めると4の輪郭がはっきり見えてくる。順番はやはり3が先である。

まとめ

  • 記録の手数はタップ数ではなく、そこに行くまでの入口の数で数える
  • 回収の入口は、相手がすでに毎日いる場所に置く
  • 置き場所を先に決めると、足すはずだった部品が要らなくなることがある
  • 新しいIDを配らない。すでにあるログイン状態を借りる
  • 状態が変わったら、見せるものも変える。終わったものを視界に残さない
  • 使われない理由は、使っていない人に聞く。利用率は「使われていない」までしか教えてくれない

自社の期限業務で、記録の入口がどこに置かれているか確認してみてください。「担当者がシステムを開いて入力する」になっているなら、その担当者が1日に何回そのシステムを開いているかを数えてみると、続かない理由がすぐ出てきます。

なお、この仕組みは期限を落とさないための道具であって、医療上の判断をするものではありません。実際に何をいつ受けるかは、公的機関の案内と医療機関の指示に従ってください。記事中の画面はすべてデモ用の架空データです。

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