「AIで何かできないか考えてくれ」
この一言から始まる相談が多いです。お題が無いので、たいてい最初にやるのはツールの比較と他社事例の収集になります。
どちらも作業としては進みます。それでも決まりません。
空いているのは、手段ではなく対象
「AIで何か」は、目的語が空いた依頼です。空欄が3つあると考えると、どこを先に埋めるかがはっきりします。
| 空いているもの | いつ埋まるか |
|---|---|
| 手段(どのAIを使うか) | 後で決まる。先に決めると対象がそれに寄る |
| 対象(どの業務か) | 現場から集めるしかない |
| 判定(やる・やらない) | 対象が出れば、ほぼ機械的に決まる |
先に手段を決めると、その道具で出来ることの中から対象を探す作業になります。画像判定の製品を先に見た会社は、画像の業務を探し始めます。順番が逆になっています。
事例集めが決まらないのも同じ理由です。事例に書かれているのは他社の業務で、自社のどこが詰まっているかは書かれていません。
現場に「AIで効率化したい業務」を聞かない

対象は現場にしかありません。ただ、聞き方を間違えると何も返ってきません。
✕ AIで効率化したい業務を挙げてください
答えられません。AIで何が出来るかを現場は知らないので、知識を持っている人しか答えられない質問になっています。結果、返ってくるのは推進担当が思いついた業務だけです。
AIという言葉を使わずに聞きます。
・毎週やっていて、面倒だと思っている作業は何ですか
・その作業は、1回どれくらい時間がかかりますか
・その作業は、月に何回ありますか
・間違えると、誰がどう困りますか
4問です。AIの知識は要りません。誰でも答えられる質問だけにすると、母集団が現場全体に広がります。
集まったものを、2つの軸で置く
時間の大きい順に並べるだけでは足りません。それをやると、判断の重い業務が上に来ます。
3問目までで「月あたりの時間」が出ます。もう1軸、答えが1つに決まるかを足します。
| 答えが1つに決まる | 答えが人により変わる | |
|---|---|---|
| 月の時間が大きい | ここから着手する | 後回し(判断の整理が先) |
| 月の時間が小さい | 手順書で足りることが多い | やらない |
左上に入るのは、転記・集計・書式合わせ・分類・下書きです。成果物の正解が1つに決まるので、合っているかどうかを後から確かめられます。
右上は、与信・評価・人の配置のように、答えが人によって変わるものです。ここは精度の問題ではなく、何を正解とするかが決まっていません。AIを入れる前に決めることがあるので、後回しにします。
4問目は、優先順位ではなく確かめ方に使う
4問目(間違えると誰が困るか)は、着手順を決めるためのものではありません。着手したあと、どう確かめるかを決めるために使います。
社内で気づいて直せる → 抜き取りで確認する
社外に出る → 出す前に人が全件見る
数字が決算に乗る → 元データと突き合わせる
ここを先に決めておくと、「精度は何%あればいいのか」という答えの出ない議論を通らずに済みます。
経営に返すのは、比較表ではない

集め終わったら、号令を出した側に返します。返すものを間違えると、また手段の話に戻ります。
✕ 主要AIツール6製品の比較表
◯ 月あたり時間が大きい業務 上位5件と、今期やる1件
後者だと、経営が判断するのは「その1件でいいか」だけになります。前者だと、判断材料が無いまま製品を選ばされます。選ばされた製品は、あとで対象を歪めます。
「何か」のままにしておく害
対象が決まらない期間は、担当者だけが動き続けます。ツールの調査、デモの手配、事例の要約。どれも成果物が残るので、進んでいないことに気づきにくいところが厄介です。
そのうえで、半年後に同じ号令がもう一度来ます。1回目の号令に対する答えが返っていないので、経営の側からは何も起きていないように見えます。
止めるのは、対象1件です。1件決まれば、次からは「あの形で持ってきて」が通じます。
今日、1つだけやる
自分の部署の人3人に、上の4問を聞いてください。会議を設定する必要はありません。立ち話で足ります。
AIという言葉は出さないでください。出した瞬間に、答えが「AIで出来そうなこと」に絞られます。
3人分あれば、月あたりの時間が大きい作業が2〜3件は出ます。そこが対象です。ツールの話は、そのあとで足ります。
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