AIに任せたら、若手が育たなくなりませんか|AIが引き受けたのは作業で、育成はそこに無かった

企業でのAI活用

AI導入の説明会で、ベテランの課長から必ずこの質問が出ます。

「資料の下書きも、議事録も、集計もAIがやるなら、若手は何で育つんですか」

反対意見として片付けるには、もったいない質問です。この人は、自分がどう育ったかを覚えている人だからです。

「それで育った」の中身を開く

その課長に、もう一歩聞いてみます。議事録を書くことで、何が身についたのか。

返ってくる答えは、だいたいこの3つです。

1. 誰が何の権限で発言しているかが分かった
2. 決まったことと、決まらなかったことの差が分かった
3. 自分の部署の仕事が、どこに繋がっているかが分かった

3つとも、文字起こしの作業そのものではありません。会議に同席し、話の流れを追い、分からない言葉を後で調べた——その時間に起きたことです。

育っていたのは会議に出ていたからで、書いていたからではありません。

作業と学びを、同じ列に置かない

作業と学びを、同じ列に置かない

ここを混ぜると、判断を誤ります。並べて書くと、こうなります。

中身 AIが引き受けるか
作業 発言を文字にする・体裁を整える・数字を転記する 引き受ける
学び 誰が決めるのかを知る・言葉の意味を覚える・前後の仕事を知る 引き受けない

作業が無くなると学びも消えるように見えるのは、これまで両方が同じ時間帯に起きていたからです。束ねていた作業が外れると、学びは自動では残りません。

放っておけば消えます。残すなら、別の形で置き直すことになります。

消えるのは「時間」ではなく「きっかけ」

若手が議事録を書かなくなって本当に失われるのは、3時間の作業時間ではありません。

分からない言葉に、立ち止まらざるを得ない場面です。

「与信枠」「簿外」「先方の決裁ライン」——書き起こしていれば、意味が分からない言葉を飛ばせません。調べるか、聞くかのどちらかになります。AIが書けば、読み飛ばせます。

だから対策は「AIを使わせない」ではなく、立ち止まる場面を作り直すことになります。

置き直し方は、3つしかない

置き直し方は、3つしかない

やることは、驚くほど単純です。

1. AIの出力を、若手に直させる(間違いを見つけるには、中身を知る必要がある)
2. 会議の後に5分、口頭で説明させる(要点を選ぶのは人の仕事のまま)
3. 分からなかった言葉を3つ書かせる(調べるきっかけを、形にして残す)

3のように「分からなかったことを出す」を成果物にすると、読み飛ばしが止まります。AIが下書きを出しても、若手は言葉を拾う理由を持ち続けます。

どれも、AIを止めずにできます。

AIが入ると、差が見えるようになる

もうひとつ、言いにくいことがあります。

議事録を書けば誰でも育つわけではありません。内容を追えていた人は育ち、分からないまま発言を書き写していた人は、時間だけを使っていたことになります。

AIが入ると、この差が表に出ます。下書きを渡したとき、直せる人と、そのまま出す人に分かれるからです。

これは育成が壊れたのではなく、これまで作業時間が差を隠していたということです。

次の説明会で、1つだけ

「若手が育たなくなる」と言われたら、否定せずにこう返してください。

「その仕事で身についたことを、3つ挙げてもらえますか」

挙がった3つのうち、文字を打つ手の動きそのものから来たものが1つでもあるかを見ます。

手の動きそのものから来たものは、多くの場合ひとつも挙がりません。そこが、置き直しの設計を始める場所です。


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