導入は済みました。研修もしました。マニュアルも配りました。
それでも使われません。
次に出てくる対策は、たいてい追加の研修か、利用率の見える化です。どちらもあまり効きません。
意欲の話にすると、打ち手が無くなる
使われない理由を聞くと、こういう言葉が返ってきます。
・現場の意識が低い
・ITリテラシーに差がある
・忙しくて覚える時間がない
どれも本当かもしれません。ただし、それだけでは打ち手になりにくいものです。意識・リテラシー・忙しさは、こちらから直接は動かせないからです。
先に確かめたいのは、もっと単純なことです。
前のやり方は、まだ使えますか。
使えるなら、使われないのは自然な結果です。
新旧が並んでいる間、新しい方は「追加」になる

たとえば申請の受付をAIに寄せたとします。このとき、たいてい前の経路が残っています。
| 経路 | 状態 | 現場から見た手間 |
|---|---|---|
| 新(AI) | 動く | 覚え直す・入力を学ぶ |
| 旧(メール・紙・電話) | まだ動く | いつもどおり |
この表が並んでいる限り、新しい経路は業務の置き換えではなく手間の追加です。
同じ結果が出るなら、慣れた側が選ばれます。これは怠けではなく、合理的な判断です。
「どちらでもいい」は、旧を選ぶ指示と同じ
移行期に「しばらくは両方で受け付けます」と案内することがあります。安全に見えますが、実務では多くの場合、片方に倒れます。
✕ しばらくは両方で受け付けます …… 旧が残る。期限も無い
◯ 10月20日から、受付はAI経由のみ …… 旧が閉じる日が決まっている
並行運用そのものが悪いのではなく、終わる日が決まっていない並行運用が問題です。
期限の無い並行運用は、こちらが忘れた頃に「まだメールでも受け付けてくれるので」という形で何年も残ります。
止める人を決める
ここでよく詰まるのが、旧経路を閉じる判断を誰も持っていないことです。
推進担当は閉じたいけれど権限が無い。部門長は現場からの反発を懸念して動かないことが多い。結果として、閉じないまま利用率だけが毎月報告されます。
決めることは3つだけです。
1. どの経路を閉じるか …… 「メール受付」「紙の申請書」など、名前で書く
2. いつ閉じるか ……… 日付。今月中、ではなく「10月20日」
3. 誰が閉じるか ……… 受付を止める権限を持つ人。部門長か、その1つ上
3が空欄のまま1と2を決めても、当日になって閉じられないことがほとんどです。
例外の扱いを先に決めておく

旧経路を閉じるとき、必ず「これは例外だ」という案件が出ます。ここで例外を通すと、旧経路が復活します。
この3つを先に決めておけば、例外の申し出が来ても判断が揺らぎません。
・例外は誰が認めるか(現場判断にしない)
・例外はどこに記録するか
・例外が月に何件を超えたら、設計を見直すか
3つ目が効きます。例外が多いなら、それは現場の抵抗ではなく新しい経路が業務に合っていないという情報です。閉じるのをやめる材料ではなく、直す材料として扱えます。
利用率より、旧経路の件数を数える
定着の指標として利用率を見ることが多いのですが、並行運用中はあまり読めません。分母が動くからです。
見たいのは反対側です。
| 見る数字 | 読めること |
|---|---|
| 新経路の利用率 | 使った人がいる、までしか分からない |
| 旧経路の受付件数 | ゼロに近づけば、移行が進んでいる |
旧経路の件数は、閉じるべき対象がまだ生きているかを映す目安になります。ここが減らないまま利用率が上がっている場合、両方に入力されている可能性があります。
今日、1つだけ確かめる
導入したAIが使われていないなら、利用率のグラフを開く前に、旧経路を1つ名指ししてください。
その経路は、今日も受け付けられる状態ですか。
受け付けられるなら、閉じる日と閉じる人を決める。それだけで、研修をもう一度やるより早く動くことがあります。
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