「経理のAさんが、AIで月次の集計を半分の時間にしたそうです」
(この記事に出てくる紹介文や数字は、説明のための例です)
社内の勉強会や掲示板で、こういう紹介が出ることがあります。聞いた人は感心します。拍手も出ます。
ところが1か月たっても、ほかの部署で同じことを始めた人がいない。紹介した側は「もっと広めないと」と考え、次の事例を探し始めます。
事例が足りないのではなく、事例の書き方が、真似できる形になっていないのかもしれません。
事例を聞いた人の頭の中
事例を聞いた人は、まず次のことを考えているはずです。
これは、自分の仕事と同じ種類の話か?
同じだと思えれば、試してみる気になります。違うと思えば、「経理だからできたこと」として聞き流しがちです。
この判断に使える材料が、紹介の中にあるかどうかを見ます。よくある紹介は、次のような形をしています。
| 紹介に入っていること | 聞いた人が判断できるか |
|---|---|
| 月10時間が5時間になった(例) | しにくい。自分の仕事が何時間かかっているかとは別の話 |
| ○○というAIツールを使った | しにくい。ツールは同じでも、入れるものが違えば別物 |
| 工夫したプロンプトの全文 | 少しできる。ただ、何を貼ったかが書かれていないことがある |
| 最初に貼ったのは、部署ごとに形式の違うExcel3つ(例) | できる。「うちも形式の違う表を毎月まとめている」と照合できる |
成果の数字は、紹介する側にとっては一番伝えたいところです。ただ、聞いた人が自分の仕事と照らし合わせるのに使えるのは、最初に何を入れたかのほうです。
業務名が違っても、材料は似ていることがある

「月次の集計」と言われても、部署によって中身は大きく違うことがあります。同じ名前の仕事が、別の作業を指していることは珍しくありません。
一方で、材料のほうは照合しやすいです。
・形式のばらばらな表を、1つの表にまとめている
・長いメールのやりとりから、決まったことを拾っている
・同じ質問に、規程を見ながら毎回答えている
業務の名前が違っても、材料が似ていれば、同じやり方が使える見込みがあります。経理の集計と、営業の週報まとめが、材料で見ると同じ形をしている、ということがあります。
事例を書くときの4行

紹介する側は、成果の前に次の4行を書きます。
最初に入れたもの 部署ごとに形式の違うExcel 3つ(列の名前と順番がそれぞれ違う)
AIにさせたこと 列の対応表を作らせ、1つの表に並べ直させた
人が直したところ 部署名の表記ゆれ(略称と正式名)を手で揃えた
前はどうしていたか 3つを開いて、目で見ながら手で貼り直していた
この例の中身は説明のためのものです。自分の事例に合わせて入れ替えてください。
「人が直したところ」を入れるのは、聞いた人がつまずく場所を先に知らせるためです。AIに任せきりでうまくいった、という紹介は、真似した人が最初の1回で違う結果に出会ったとき、そこで止まりやすくなります。
「前はどうしていたか」は、聞いた人が自分の今のやり方と比べるための欄です。成果の数字は、この4行のあとに添えれば足ります。
真似した人が出たら、その人の4行も集める
1人が真似を始めたら、その人にも同じ4行を書いてもらいます。
元の事例と並べると、「最初に入れたもの」が少し違い、「人が直したところ」も違うことがあります。その違いが、次に真似する人にとって一番役に立つ情報になります。
事例を増やすときは、新しい成功例を探すより、同じやり方を別の材料で試した例を並べるほうが、聞いた人は自分の仕事に引き寄せやすいはずです。
今日、1つだけやる
これまでに社内で紹介されたAI活用の事例を、1つ選んでください。
その事例について、「最初に入れたもの」を1行で書けるか試します。
書けなければ、紹介した本人に「最初に何を貼りましたか」と一言聞いて、元の紹介の一番上に書き足してください。それだけで、次に読む人が自分の仕事と照らし合わせられるようになります。
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