情報システム部門から依頼が来ます。
「全社でAIを使う前に、利用ガイドラインを作ってください」
真っ当な依頼です。そして、出来上がったものの多くが、読まれた瞬間に利用を止めます。
出来上がるのは、たいてい禁止の一覧
初稿を集めると、ほぼ同じ形になります。
・個人情報を入力しないこと
・機密情報を入力しないこと
・出力をそのまま外部に出さないこと
・業務利用は所属長の承認を得ること
どれも間違っていません。間違っていないのに、現場が動かなくなります。
理由は単純で、この4行を読んだ人が最初に考えるのは「何なら入れていいのか」だからです。そして、その答えがどこにも書いてありません。
禁止だけを書くと、判断が読み手に丸投げされます。丸投げされた人は、安全側に倒れて使いません。
「機密情報」で止まる

いちばん止まるのが、この言葉です。
見積書の金額は機密か。まだ出していない提案の構成は機密か。社内の会議の発言は機密か。取引先の社名は機密か。
現場は毎回これを考えることになります。考えるのが面倒になった時点で、使うのをやめます。ルールは完全に守られ、利用率は上がりません。
| ガイドラインの記述 | 現場で起きること | |
|---|---|---|
| 禁止だけ | 「機密情報を入力しない」 | 毎回判断を迫られ、使わなくなる |
| 例示がある | 「社名・個人名・未公表の金額は伏せる」 | 伏せて使う |
差は、書いてある分量ではありません。判断を誰がするかです。
先に決めるのは、判断の主語
ガイドラインで本当に決めるべきことは、禁止事項ではありません。
「この判断は、誰がするのか」です。
1. 現場が毎回判断すること … 具体例で示す(伏せ方の型を3つ出す)
2. 会社が一度決めておくこと … 使ってよいサービスを名指しで指定する
3. 個別に相談すること ……… 相談先の部署名と、返事が来るまでの日数を書く
3の「日数」が抜けると、相談先は機能しません。いつ返ってくるか分からない窓口には、誰も投げないからです。
使ってよいものを、名指しで書く

「会社が承認したサービスを利用すること」と書かれたガイドラインをよく見ます。
承認されたサービスの一覧が、どこにも無いことがあります。
これは現場から見ると「使うな」と同じです。名前を書いてください。1つでも構いません。1つ名前が書いてあれば、その日から使えます。
禁止は、後から足せる
ガイドラインを完璧にしてから配ろうとすると、配る前に半年が過ぎます。その半年、現場は野良で使うか、まったく使わないかのどちらかです。
どちらも、ルールが無い状態より悪くなります。
先に配るのは、この3つだけで足ります。
1. 使ってよいサービスの名前
2. 伏せるものの具体例(社名・個人名・未公表の数字)
3. 迷ったときの相談先と、返事までの日数
禁止事項は、実際に困った事例が出てから足すほうが、読まれます。起きてもいない事故を想像して書いた禁止は、現場の実感と噛み合わないからです。
次の打ち合わせで、1つだけ
ガイドラインの初稿が手元にあるなら、文中の「機密情報」「適切に」「必要に応じて」を検索してください。
1つでも見つかったら、そこが現場の手が止まる場所です。
その言葉の横に、具体例を3つ書き足す。それだけで、読み手が判断できる文書に変わります。
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