PoCは成功したのに、本番に進みません|精度90%の報告に、誰の仕事が書かれていないか

企業でのAI活用

3か月のPoCが終わりました。報告会のスライドには、こう書いてあります。

「問い合わせ回答の自動生成:正答率90%。実用に足る水準を確認」

参加者の反応も上々です。それなのに、半年たっても本番に進んでいません。

誰も反対していません。予算が削られたわけでもありません。ただ、次の一歩を誰も踏んでいないのです。

PoCの「成功」が、何を確かめたのか

PoCで確かめたのは、ほとんどの場合これです。

確かめた    AIが、それなりの答えを出せるか
確かめていない  本番で、誰のどの作業が、いつから無くなるか

前者は技術の問い、後者は業務の問いです。PoCは前者に答えを出して終わります。

ところが、本番に進むかどうかを決める人が知りたいのは後者です。「90%」と聞いても、自分の部署の何が変わるのかが分からないので、決められません。決められないものは、反対されずに止まります。

本番で止まる、3つの空欄

本番で止まる、3つの空欄

PoCの報告書を、次の3行で読み直してみてください。

問い 報告書に書いてあるか
本番で、誰の作業が無くなるか たいてい「問い合わせ対応業務」までで、人が出てこない
残りの10%を、誰が拾うか たいてい書いていない
動かし続けるのは、どの部署か たいてい「PoCチーム」のまま

3つとも空欄なら、本番に進まないのは自然です。

特に2つ目が重い。精度90%は、10件に1件は人が直すという意味です。直す人が決まっていないと、現場は「間違えたら誰の責任か」を心配して、使うのを控えます。

⚠️ ここで「精度を95%に上げてから本番に」と考えると、PoCがもう1周始まります。空欄は精度を上げても埋まりません。

PoCの成功条件を、始める前に書き換える

PoCの成功条件を、始める前に書き換える

PoCを始める前に、成功条件を次の形で1行書きます。

「◯◯課の△△さんが、毎週やっている□□の作業を、やらなくて済むこと」

名前は役割でも構いません。大事なのは、特定の人の、特定の作業になっていることです。

この1行があると、PoCで確かめることが変わります。

  • 正答率ではなく、△△さんが実際にその作業をやめられたか
  • 残りの誤りを、△△さんが何分で直せたか
  • △△さんが「来月からこれでいい」と言うか

3つ目が言えたら、それが本番に進む根拠です。90%より、ずっと強い根拠になります。

動かし続ける人を、PoCの中に入れておく

もう1つよくあるのが、PoCを作ったチームと、本番で使う部署が違うことです。

PoCチームは、終わったら次のテーマに移ります。使う部署は、作った経緯を知りません。本番化とは、この間でボールを渡すことですが、渡す人も受け取る人も決まっていない。

防ぎ方は1つです。

本番で動かし続ける部署の人を、PoCの初日から1人入れる。

その人は、作る手伝いをしなくて構いません。毎週の打ち合わせに出て、「これ、うちで回せますか」と聞き続ける役です。この人が「回せます」と言えないものは、PoCの段階で直せます。

月曜に、1つだけ

いま止まっているPoCが1つあれば、報告書を開いて、この1文を探してください。

「誰の、何の作業が、無くなるか」

見つからなければ、追加の検証より先に、その1文を書くのが先です。書こうとして書けないなら、止まっている原因はそこにあります。

PoCが確かめるべきは、AIの賢さではありません。本番で、誰かが実際に手を止められるかです。


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