「AIを使うなら、まずデータを整えないと」
この方針のまま、AIの話が止まっていることがあります。
顧客の台帳は部署ごとに別のファイル。商品名は人によって書き方が違う。日付の列に「来週」と入っている。たしかに、このままでは使えそうにありません。
そこでデータ整備の計画が立ちます。計画は立つのに、終わる日が決まりません。
「全部を整える」には、終わりの条件が無い
整備が終わらない理由は、人手だけとは限りません。「整った」と言える条件が決まっていないことがあります。
・どのファイルまでが対象か
・どの列を直すのか
・どこまで直れば「整った」のか
この3つは、データを眺めていても決まりません。何に使うかが決まって、はじめて決まります。
使い道が無いまま整えると、対象は「全部」、基準は「できるだけきれいに」になります。どちらにも終わりがありません。
そのあいだにも、新しいデータは毎日入ってきます。入力の仕方が変わっていなければ、直した分の隣に、直っていないデータが増えていきます。
先に決めるのは、最初の1業務

順番を逆にします。データから始めず、業務から始めます。
| 先にデータを整える | 先に業務を1つ決める | |
|---|---|---|
| 対象 | 全部のファイル | その業務が読むファイルだけ |
| 直す列 | 全部の列 | その業務が使う列だけ |
| 直す行 | 全部の行 | その業務が参照する範囲だけ |
| 終わりの条件 | 決まらない | その業務が1回通ること |
たとえば「問い合わせに、直近1年の対応履歴をもとに返信案を作る」を最初の1業務にしたとします。対応履歴の表を開いて、使う列を数えます。
対応履歴の表: 列は全部で28個(例)
返信案を作るのに使う列
・問い合わせの内容
・回答した内容
・対応した日付
・製品の区分
この例では、28列のうち4列です。行も、参照すると決めた直近1年の分だけです。整える範囲が、表の全部から「4列×1年分」に変わります。
担当者名の書き方の違いも、備考欄の使い方のばらつきも、5年前の履歴も、この業務では使いません。使う業務が出てきたときに直します。
「使えない」の中身を3つに分ける
使う列が決まったら、その列だけを見て、何に困るのかを分けます。
| 状態 | 例 | どうするか |
|---|---|---|
| 空欄が多い | 製品の区分が半分入っていない | 過去の全件は埋めない。業務が参照する範囲だけ埋めて、今日から入力を必須にする |
| 書き方が揃っていない | 日付が「10/5」「10月5日」「来週」 | 参照する範囲だけ直して、入力欄を日付の形式に固定する |
| 置き場所が分かれている | 履歴が部署ごとに別ファイル | 最初は1部署の分だけで始める |
3つに共通するのは、過去を直すのと一緒に、これから入る分が整って入るようにすることです。入力のきまりが変わっていなければ、直した分の隣に、また同じ形のデータが入っていきます。
整える前に、いまの状態で1回通す

もう1つ、整備より先にできることがあります。使う列だけを、いまの状態のまま20件ほどAIに渡して、返信案を作らせてみます。渡してよい情報かどうかは、社内のAI利用ルールで先に確かめてください。
出てきた返信案を、ふだんその問い合わせに答えている担当者が読んで、3つに分けます。基準は「このまま送れるか」です。
そのまま送れる → その件については、いまのデータで足りている
直せば送れる → どこを直したかを書き出す
送れない → 元のデータの何が足りなかったかを書き出す
書き出されたものが、整備の一覧の最初の版になります。実際に困った箇所だけが並びます。
20件は当たりを付けるための数です。全体の傾向までは分かりません。繰り返し出た箇所から直し、直したあとで件数を増やしてもう一度通します。
人が読めば分かる程度の書き方の違いは、AIが読み分けられる場合もあります。直すつもりだった項目が、試してみると直さなくて済んだ、ということが起こりえます。
逆に、想定していなかった穴もここで見つかります。回答の欄に「電話で対応」としか書かれていない、といったものです。これは形式を揃えても解決しません。書かれていないものは、整えても出てきません。
整備の計画は、止めなくてよい
全社のデータ整備が要らない、という話ではありません。台帳の統合のように、時間をかけてやる意味のあるものもあります。
変えるのは順番です。
✕ 整備が終わったら、AIを始める
◯ 1業務を通しながら、その業務が使う分から整える
1業務が通ると、次の業務が使う列が分かります。整備の計画に、使う順という優先順位が付きます。どの業務も使わない列は、後ろに回せます。
今日、1つだけやる
AIに任せたい業務を1つ決めて、その業務が読む表を開いてください。決めかねるときは、毎週同じ形で繰り返している作業から選びます。
列の見出しを上から順に見て、その業務で実際に使う列に印を付けます。
印の付いた列が、最初に整える範囲です。次に中身を見るのも、その列だけで足ります。
ほとんどの列に印が付いたら、業務が1つに絞れていないかを見直してください。「問い合わせ対応」ではなく「問い合わせへの返信案を作る」まで狭めると、印の数が減ります。
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